青酸カリの作品1

 

指輪・ハンガー・麦茶

 

 

日本のとあるどこか、電車は一時間に一本、山に囲まれ田園風景の広がる田舎町。

ある通りの前に一人の男が倒れている。

奇抜な髪色、派手な衣装を身に纏った男は夏の陽気に晒され呻く。

だがよそ者、しかも明らかに厄介そうな男に優しく声をかける人間は誰も居なかった。

 

しかしまばらに通り過ぎるその道で誰もが彼を無視する中、一人の少女『小雪』が声をかける。

「あたしの家の前で死なれたら夢見が悪いから。」

男を引き起こし家へ招くと、一杯の麦茶を差し出す。男はそれを一息に飲み干した後ーーー

「契約完了」

辺りから徐々に空の青、山の緑と色が失われ、徐々に色を失う世界。その中で彩り豊かに在り続ける男に、少女は問いかけた。

「何をするの、あなたは何者なの」

「拙者は 掛け衣紋と申す。ここには世界を救う女神を探しにここまで来たのだ。」

「…名前がとてつもなくダサい上に発言も頭がおかしいとしか思えないほどまっっったく信じられない理由だけど、

 百歩譲ってそうだとして。こんな田舎町にそんなのいるわけないでしょ。」

「いや、いたのだ。ここに。」

「え、いたの」

「お主だ、拙者が探しておったのは。」

意味が解らないという少女に男は説明する。

 

男はこの世界とは反対の『陰』の世界の人間であり、

人間の欲望が集まりすぎて滅びそうな陰の世界を救うための救世主である巫女を少女の住む『陽』の世界に探しに来たのだという。

元来より『陰陽の巫女』は二人で一人の対とされ、

巫女たちは代々『陽の巫女』が『白蛇の指輪』を、『陰の巫女』が『黒蛇の指輪』を継承するのが習わしとなっており、

少女は幼少期に行方不明になった母親から『白蛇の指輪』を受け継いでいた。

『陰の世界』の重臣である掛け衣紋は巫女である小雪の従者になるためここに来たという。

契約の条件は『主が作成した依代を体内に入れる』こと。

小雪の淹れた麦茶を飲んだ掛け衣紋はこれから小雪と共に滅びそうな『陰の世界』を救う盾になるという。

 

「…指輪を持っていたから救世主?でもあたし、生まれてこのかた格闘技なんてしたことないわよ?剣技でも今から教えるつもり?」

「いや、そなたには今日から『ハンガー』という武器を使って戦ってもらう。」

「武器…ハンガー?…え、このハンガー使うの!?」

「ああ、やはり馴染んだ武器が一番だからな。よろしく頼むぞ小雪、世界はそなたの手にかかっておる。」

 

女子高生救世主、小雪。今日から世界、救っちゃいます。

 

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